監修:S・マーフィ重松(東京大学助教授) 監修・翻訳:岩壁 茂(お茶の水女子大学助教授)
■VHS ■日本語字幕スーパー ■収録時間:59分 ■解説書付
■商品コード:VA-2003 ■¥48,600(税込) |
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北アメリカでは、1970年ごろから心理療法の過程と効果の実証的研究が盛んに行われてきた。学派を超えて治癒的効果をもつ作業や要因を模索する研究は、共通因子アプローチと呼ばれる。これまでに、心理療法が問題解決の助力になるとの期待感を高めること、最適な治療関係の確立と維持、クライエントの気付きを高めるためにフィードバック、修正感情体験の促進、現実検討能力の向上などの因子が心理療法における治癒に寄与することが実証的な裏づけを得ている。ゴールドフライド博士による認知感情行動療法は、これらの治癒因子を最大限に活かし、治療効果を高める実証研究に基づいた治療アプローチである。ゴールドフライド博士が、特に強調するのは、感情?行動?認知のあいだのつながりであり、一つの問題をこの3次元から検討することにより、クライエントの変容を浸透させ、それをより深く根付かせようとするのが分かるであろう。
マービン・ゴールドフライド博士
(ニューヨーク州立大学ストーニィ・ブルック校教授)
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マービン・ゴールドフリード博士について
マービン・ゴールドフリード博士は、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(SUNY)の心理学と精神医学の教授である。講義、スーパーヴィジョン、研究に従事するかたわら、限られた時間ではあるがニューヨーク市で個人開業も行っている。アメリカ専門心理学委員会(American
Board of Professional Psychology)の認定資格を有し、アメリカ心理学会(American Psychological
Association)及びアメリカ心理学協会(American Psychological
Society)の評議員、専門誌数誌の編集委員を務め、これまでに数多くの論文や著作がある。最近の著作には、「認知行動療法から心理療法統合へ(From
Cognitive-Behavioral Therapy to Psychotherapy
Integration)」がある。また博士は、心理統合探求学会(The Society of the Exploration of Psychotherapy
Integration)の創始者の一人である。
認知感情行動療法の概要
このアプローチは、主に認知行動療法的な考え方を採るが、体験療法の知見も取り入れている。一定の共通する諸原理が心理療法における変容過程に関係し、それらが学派の差異を超えた水準で作用していると考えることにより、異なる理論的アプローチの要素を取り入れることが可能になるのである。これらの変容の諸原理には、心理療法が問題解決の助力になるという期待感を高めること、最適な治療関係の確立と維持、クライエントの気付きを高めるためにフィードバックを与えること、修正感情体験の促進、継続して現実検討を行うこと、または徹底操作がある。
この実演には異なる治療アプローチの特徴が反映されており、それはより広い意味での「変容の原理」を応用していると見ることができる。例えば、認知行動療法と体験療法はそれぞれのアプローチにしかない固有の特徴をもち、認知行動感情療法において相補的に作用するといえる。行動療法は、行動リハーサルやアサーティブネス・表現トレーニングなど面接外において患者が修正体験をもつ確率を高めるための革新的方法を開発してきた。一方、様々な体験療法は、二つの椅子の対話など、感情的興奮を高め、患者の欲求への気付きを高めるために有効である。
収録された面接で、ゴールドフリード博士は、ジャネットが他者の反応を気にするのではなく、自分のもつ感情や意図に耳を傾けられるように、また、これらに基づいて他者に反応できるように援助することによって、彼女の感情表現力を高める。まず、患者の感情や欲求の体験的側面に焦点を当てることからはじめ、さらに行動リハーサル法を導入することにより、アサーション(自己主張)と自己表現の「表裏(つまり、体験的側面と行動)」を兼ね備えたアプローチとなっている。
クライエントの素性
■ジャネット ■年齢:31歳 ■性別:女性 ■人種:白人 ■婚姻関係:8年前に離婚(2年間の婚姻関係のあと) ■両親:母親(60歳)健在、父親、患者が14歳の時に死去 ■兄弟:なし ■子供:なし ■教育歴:大学3学期修了後退学:事務員専門学校卒業 ■職業:法律事務所、職員
関連する出来事
ジャネットは、4、5ヶ月のあいだ心理士に会いに行こうかと考えていた。彼女は、対人関係のことで気分がふさぎ込んでいた。いつも対人関係のことでイライラして面白くない思いをするのはもう嫌になり、変わりたいと感じていた。そこで会社の同僚がゴールドフリード博士を紹介してくれた。
ジャネットがラリーとつき合いはじめてから6ヶ月経過した。8年前に離婚したあと、いろいろな男性とつき合ったが、どの男性とも7、8ヶ月しか続かなかった。これらのうちの多くが妻帯者だったり、なんらかの意味で「現実として結婚するのは無理」な相手であった。彼女はラリーとの関係が「本物」になる可能性をもっていると信じていたし、ラリーについて、本当に心を開ける相手を見つけた、本当に信頼できる相手だ、本当の自分を見せることができるかもしれない相手だと思うのだが、どうしたらそう出来るのかがわからなかった。
ジャネットはラリーとの関係で失敗したくなかった。自分を表現して、時に怒りを表し、関係の中で自分の欲求を主張できるようになりたかったが、彼女にはそれが出来なかった。一方、ラリーは彼女が感情を表せないことに不満を感じはじめていた。ラリーがジャネットに自分について話すようにしむけると、彼女は決まって話を変えてラリーに焦点を移し、時には畏まったり、無口になったり、自分には関係ないといった態度をすることもあった。些細なことでかんしゃくを起こすことも時折あった。彼女は怒りを感じると、自分の怒りを忘れて、それが不適切だと思うことが多かった。自分の気持ちを打ち明けられたらと思う一方で、自分が何を求めているのか言い表すのが恐かったのだ。それでも、自分が心を開かなければ、ラリーを失うのではないかと恐れていた。二人はラリーが遅刻したとか、電話をするのを忘れたといった些細なことで口論となった。彼女は、感情を表現できないことで「身動きがとれない」けれども、「心の扉」を開けるのは恐いと言った。
これまでの面接の経緯
第1回面接
ゴールドフリード博士は、「今回、どのようなことに促されて私と連絡をとろうと思ったのか教えて下さい。」と言って面接をはじめた。
するとジャネットは彼氏との関係について心配していることを話した。
次に、ゴールドフリード博士は、ジャネットの最近の異性関係や結婚について質問した。彼女は離婚後8年間の異性関係や結婚について、7、8ヶ月以上関係が続いたことがなく、その頃になると関係は緊張し、感情的に重荷になると話し、それぞれの関係が続いているあいだ、他の男性とはつき合わなかったことを伝えた。
面接の終わりに近づくと、博士はセラピーでどんなことが起こるかを説明した。そして、初めの回と3回目の途中までは彼女を人間として知ることに割くと話し、第3目の面接までに自分の意見を彼女に教えると伝えた。
また博士は、二人で到達しようとする治療同盟を説明した。治療同盟は、以下の3つの部分、(a)感情的絆で、患者が気を楽にし、セラピストが患者の波長に合わせ患者の関心事を常に心に留めていることを意味する、(b)治療の目標の確立、(c)治療方法に関する合意、から成ると話した。
さらに博士は、ジャネットに個人史に関する質問紙に応えて、次回の面接までに郵送するよう、また、ベックうつ質問紙(Beck
Depression
Inventory:BDI)にも答えて郵送するように指示した。
博士は面接の終わりにジャネットが質問できるように5分から10分とっておいた。そこで彼女は、博士の経歴や訓練などについていくつか質問し、博士はそれに答えた。最後に、今後私と心理療法を続けたいかどうかを彼女に尋ねると、彼女は「はい」と答えた。
第2回面接
ゴールドフリード博士は、ジャネットが郵送してきた個人歴の質問紙の情報を使って第2回の面接をはじめた。博士は、両親との関係、父親の死、結婚、3学期で大学を辞めた理由など、彼女の個人歴の中で際立った事柄に関してより細かな質問をした。彼女は、父親の死後、経済的に困難な状況が続き、学費を払えなかったと答えたあと、事務員になるための専門学校について話し、法律事務所の事務員として上手く身をなしたと伝えた。
第3回面接
第3回面接でジャネットとゴールドフリード博士は、ラリーとの関係と8ヶ月続いた関係の二つを例として挙げて、彼女の異性関係について深く探索した。そして彼女の男性との経験に、テーマや重なるパターンを探した結果、一人の男性との同じような関係をくり返していることが分かった。
そのあと博士は、ラリーとの関係に会話を戻し、ラリーとの関係が悪化するのを遅くするために、ラリーと二人で来談したらどうかと提案した。すると彼女は二人で面接に来ることが有効であると合意した。
次に治療同盟にトピックを移し、自分のあいだに感情的なつながり、つまり、二人で話していることを自分が理解している、とジャネット自身が感じることが必要であると念をおした。
そして、セラピーにおいて目標を立て、その順序付けをすることの理由を説明すると、彼女は3つの目標を挙げ、以下の順番に並べた、(1)ラリーとの関係、(2)仕事場での対人関係の諸問題を段階をおって解決すること、(3)可能であれば、母親との関係を長期的に向上すること。
続いて博士は、それらの目標の達成に向けた治療過程がどのようなものかを話し、ジャネットが自分自身の欲求に波長を合わせ、それを表現する方法を学ぶことが必要であると説明した。二人は、障害を取り除くために場面を想像して、その中でどのような行動をとるかロールプレイを使って練習し、そのあと博士は彼女が次回の面接までに出来るリスクが伴う様々な行動について説明した。ロールプレイやリスクをとる宿題というのは、彼女が恐れていることを小さな段階にわけたもので、彼女の心の準備ができているものから扱っていた。 |